城下町ブログ

第13回 旅情

今、国内はもとより世界中で新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、「不要不急の外出の自粛」が求められ、旅行も自粛ムード。尼崎城も臨時休館中だ。そんなときだから(こそ)、古くから日本人がいかに旅好きで、その旅で感じた「旅情」を絵葉書で伝えていたか。それを教えてくれる店が、尼崎城のすぐそばにあるので紹介したい。


そこは、阪神尼崎駅の南出口の正面に建つタワーマンションの南隣、40年以上前から、長屋の一角にひっそりと佇む古書店「図研」だ。「親父が趣味でコツコツ集めたものから始まった店なんです」と、亡き父・洋さんの跡を継いだ中西隆次さん。今は、父と一緒に店を手伝ってきた母、姉とともに店を続けている。

<古銭に組紐を掛けたキーホルダー。古銭キーホルダーと古銭6枚のセットものもある>

去年からは、尼崎城の来館者がお店に流れてくることを期待して、店頭に江戸時代の古銭セットを用意した。「せっかく姉が作ってくれた商品なんですが、来店者は増えてないですね」と、隆次さんは笑う。聞けば、来店者は「月に3~4人かな?もっぱら、即売会やオークション、ネット通販での販売が多いんですよね」とのこと。


たった7坪の小さな店内には、古本やポスター、切手、ポスターなどもあるが、なかでも群を抜くコレクションは、天井まで届く壁一面の棚に収まった絵葉書だ。テーマごとに名所、建物、美人、皇室などと分けられ、ボックスに入った状態でびっしりと並んでいる。その数は10万点あまり。ほとんどが明治後期から昭和初期に発行されたものらしい。今や、相手が遠かろうが近かろうが、携帯やパソコンでメールを送って済ますことが多くなってしまったが、かつては旅先で絵葉書を送って「旅情」を伝える、ってことがいかに多かったか、コレクションの山を前にすると改めて感じるのだ。

<未使用の葉書より、使用された「実逓便」のほうが、消印などで時代が特定できるため価値が高くなるそうだ>

店内には、歴史的資料価値のあるものも多く、数年に一度決まって足を運ぶ海外の研究者もいるらしい。尼崎市立地域研究史料館とも縁深く、「古い尼崎の資料が手に入ると、お父さんは史料館に連絡したりしてましたね」と、隆次さんのお母さんが教えてくれた。


ちなみに尼崎城の商品があるか尋ねてみたが、残念ながら最近は入手しにくくなっているとのこと。代わりに、他府県の城の絵葉書を色々出してくれた。大阪城、名古屋城、熊本城もある。

<右から、古い順に並べてみた。線なし、三分の一線、二分の一線の絵葉書>

ここで、ちょっと豆知識をお伝えしよう。
葉書オモテに書かれた「線」の位置で、だいたいどの時代の発行か分かるらしいのだ。線は、宛名とメッセージ欄の区切りのために引かれたもの。「線なし」は明治、「三分の一線」は明治から大正、「二分の一線」は大正から昭和とのこと。古い絵葉書の発行時期を知ることができる目安として覚えておきたい。

<店前の路上で遊ぶ、子ども時代の姉と隆次さんを写したスナップ写真>

日々、店以外の隣の倉庫にもぎっしりと積まれたコレクションを、丁寧に値付けや包装し、商品化していくことは途方もない、終わりなき作業のような気がするが「もう日常やからね」、と穏やかな眼差しで語る隆次さん。かつて家族が長く暮らした自宅があった、店の向かいの場所はタワーマンションに変わったが、父が大切に集めたコレクションの店は残った。人々の記憶に残しておきたい風景や思い出の場所や出来事を、再び戻るべき場所へ繋ぐために、家族の仕事は続いていく。
※次号の南部再生vol.62でも、図研さんを紹介しています。お楽しみに。

【店舗情報】図研 開明町1-17 10時~17時 日休

過去に図研を紹介した記事はこちら(南部再生vol.42)http://www.amaken.jp/42/4212/